若きチームが挑む、
イトーキの“レガシー”の変革
『vertebra03』開発プロジェクト
2017年、夏。イトーキで最も長く販売され、最も売れた「チェア」が生まれ変わろうとしていた。それは、イトーキの“レガシー”ともいうべき、代表的なオフィスチェア「vertebra」。プロジェクト成功の裏には、常識にとらわれない自由な発想で開発を行った、若きチームの奮闘があった。
高橋 謙介開発設計統括部 詳細設計担当
大学では、機械工学・デザイン・人間工学を専攻。在学中にオフィスチェアの開発を志し、2010年イトーキ入社。入社後は国内外向けのオフィスチェアの開発設計に従事。vertebra03では、詳細設計と設計テーマリーダーを務めた。
竹谷 友希商品統括部調達設計部 開発設計担当
大学でプロダクトデザインを学ぶ中で、人間工学に関わりの深いイスの造形に興味を持ち、2015年イトーキへ入社。入社後は、オフィスチェアの開発設計に従事。vertebra03開発では構想設計から詳細設計まで担当。
宮田 亜由子商品開発本部 CMFデザイン担当
大学でテキスタイルデザインを学び、卒業後は内装材メーカーに勤務。多様化が進むオフィスでの働き方やインテリアに興味を持ち、2018年にイトーキ入社。前職での経験を生かし、CMFデザイン担当として商品開発に取り組んでいる。
森田 凌伍オフィス商品開発設計部 チェア開発設計室部 詳細設計担当
大学でプロダクトデザインを学び、2015年イトーキに入社。入社後は滋賀県にあるチェア工場でオフィスチェアの詳細設計に従事。vertebra03開発では、森田の寮で高橋・竹谷とともに日夜、ディスカッションを重ねた。
現代の働き方に合わせた、新しいチェアを
きっかけは「ロングライフな定番商品をつくりたい」というイトーキがかねて抱いていた想いだった。1981年に発売されたオフィスチェア「vertebra」。人間工学と生体力学に基づく最先端の機能を搭載し、日本のオフィスチェアの常識を覆したこの製品は、ロングセラーとして長年親しまれてきた。しかし、世の中の働き方が多様化する中、仕事はオフィスだけで行うものではなくなってきた。ならば、「vertebra』も今の時代に合わせ、よりリビングライクものへと変える必要がある──そう考えたイトーキは、プロダクトデザイナーの柴田文江氏にお声掛けし、新たな「vertebra」の開発に乗り出した。
自由に議論し合える「イキイキ」とした環境
イトーキと柴田氏でディスカッションを重ね、コンセプトが決まった。それは“「働く」と「暮らす」を越境するワークチェア“。このコンセプトを実現するための、量産設計担当として選ばれたのが、高橋・竹谷・森田という入社10年目以内の若いチームだ。3人は「月曜日の朝から金曜日の夜まで、ほとんど滋賀に“住み込み”でしたね」と笑う。設計テーマリーダーである高橋と構想設計・詳細設計を担う竹谷は東京在住。2人は滋賀の森田の寮で、昼夜を問わず議論を重ねた。
竹谷は語る。「柴田さんのデザインスケッチを見て、驚きました。細いシルエットに、様々な機能を組み込む必要がある。このデザインと機構をいかに両立させるかを四六時中話していましたね」。森田も続ける。「『今日は仕事の話をやめよう』と言っても、15分くらい経ったら、設計について議論をしていて。でも、そこからさまざまなアイデアが生まれました」。背を動かす、肘を折り曲げる、座面の裏の「メカ」と呼ばれる部分を薄くする、えぐれた座面にキレイに布を添わせる……3人は、デザインを生かすための機構を徹底的に話し合い、一つひとつ実現していった。
一方、CMF※デザイン担当としてアサインされたのが宮田だ。4カ月前に内装材メーカーからイトーキへ中途入社してきたばかり。宮田は語る。「『vertebra』がイトーキの“レガシー”であることは、何となく知っていました。けれど、バックボーンを知らない若い人たちが見ても、素直に『カッコいい!』と思ってもらえることも大切だと思ったんです。チェアは機構ありきの部分もありますが、それを一回取り払い、今のトレンドを反映させたい。その想いをぶつけました」。数十種類におよぶ張地サンプルをもとに、柴田さんからのカラー提案をミックスさせながら、「働き方」や「暮らし方」に合わせて選べるようなCMFの検討を重ねた。結果的に、マットな質感にこだわった4種のカラーと、オリジナルタイプや「Knoll」などを盛り込んだ28種のファブリックを搭載し、イトーキ史上稀に見るチャレンジングなCMFを実現。機構も完成し、2019年8月、ついに「vertebra03」が誕生した。
※CMFとはどんなものにも存在する表面のことで、COLOR(色)、MATERIAL(素材)、FINISHING(加工)の3つの要素の頭文字
広がる、「働く」と「暮らす」の可能性。
初めて設計テーマリーダーを務めた高橋は「自由にやらせてもらえました」と、一連のプロジェクトを振り返る。「イトーキの“レガシー”である「vertebra」のリデザインに萎縮することなく立ち向かえたのは、企画・設計をサポートしてくださった先輩方が温かく見守ってくれたからだと感じています。今の時代にマッチしていると心から誇れる製品を、このチームで、このイトーキで完成させられたことは本当に良かったと思います。ですが、反省点を挙げればキリがない。私たちは、これからも時代に合ったイトーキにしかできない魅力的な製品を生み出していかなければなりません。プロセスを見直しながら、より効率的にプロジェクトを進められるよう、私自身も成長していきたいです」。
「vertebra」シリーズは今年、初代の発売から39年目を迎えた。高橋は続ける。「“オフィス家具”ではなく、“デザインファニチャー”として、海外展開も含め、あらゆる可能性を模索していきたいと思っています。そして将来は『働く』と『暮らす』の両方の良さを融合させたチェア以外の製品にも展開していけるといいですね」。イトーキで最も長く販売され、最も売れた「チェア」は形を変え、未来へと羽ばたいていく。
※所属部署・役職は取材当時のものとなります
PERTNER’S VOICE デザインスタジオエス代表 柴田 文江様
私がどんな提案をしても、絶対に否定をしない。そのイトーキ様の熱意にとても感動しました。今の働き方と本当にマッチしている「新しい椅子のあり方」をどのように実現するか。これをONE TEAMで考え、形にできたことは、私にとっても非常に良い経験となりました。今後も「働く」と「暮らす」を両立する、新たな製品を生み出していただけることを期待しています。
vertebra03(バーテブラゼロサン)
“vertebra03(バーテブラゼロサン)”は、これからの時代の自由な働き方への回答として、イトーキがプロダクトデザイナーの柴田文江氏を迎え、新たに世に送り出したワークチェアです。